大切な人を亡くし葬儀の準備に追われるなか、「曹洞宗の葬儀の流れがよくわからない」「宗派ごとのマナーは違うのか」など、不安に感じる方は多いのではないでしょうか。曹洞宗の葬儀には、他宗派にはない儀式やマナーがいくつか存在します。
本記事では、曹洞宗の葬儀の流れや作法、僧侶へのお布施、戒名の意味や費用相場、参列時のマナーまでをまとめました。
この記事を読めば、葬儀の基本がわかり、宗派ならではのポイントも押さえられます。安心して故人を見送る準備が整えられるでしょう。
この記事を要約すると
- 曹洞宗は禅宗のひとつで、坐禅を基本としています。葬儀では他の宗派にはない独自の儀式があります。複数人の僧侶によって行われ、鳴り物を使用するのが大きな特徴です。
- 曹洞宗の葬儀では宗派独自の儀式が行われます。戒律を唱え戒名を授かる「授戒」と、故人を仏の世界へ導く「引導」の、大きく分けて二つの儀式で構成されます。
- 曹洞宗の葬儀では、焼香と線香の作法が他宗派と異なる点です。焼香は一般的に2回行います。線香の本数は1本で、立てて供えます。
曹洞宗の葬儀とは?特徴と他宗派との違い
曹洞宗(そうとうしゅう)は、曹洞宗・臨済宗・黄檗宗の三つからなる「禅宗」のひとつです。
鎌倉時代に道元(どうげん)禅師が禅の教えを日本に伝えて開かれ、その教えを受け継いだ瑩山(けいざん)禅師によって全国に広まりました。
福井県の永平寺と神奈川県の總持寺、二つの大本山を中心に、全国に14,000を越える寺院があります(令和5年宗教年鑑より)。信徒数も多く、日本で広く信仰されている宗派のひとつです。
曹洞宗の基本理念
曹洞宗では坐禅が基本となっており、坐禅の実践によって得られる心の安らぎが仏の姿であるとしています。「只管打坐(しかんたざ)」という「ただひたすら坐る」ことを基本姿勢とするのが特徴です。
同じ禅宗の臨済宗(りんざいしゅう)では、禅問答を通じて悟りを深める修行がなされますが、曹洞宗は、静かに座ることそのものを修行としています。
特徴と他宗派との違い
曹洞宗の葬儀には、他の宗派には見られない独自の儀式がいくつかあります。
鳴り物の使用など独自の儀式
曹洞宗の葬儀では、音によって盛大に故人を見送る「鼓鈸三通(くはつさんつう)」の儀式が大きな特徴です。導師を含む3人の僧侶が、印金(いんきん)、鼓(つづみ)、妙鉢(みょうはち)といった仏具を鳴らしながら行うもので、俗に「チンドンシャン」とも表現されます。
また、「梅花流御詠歌(ばいかりゅう ごえいか)」と呼ばれる仏教讃歌が葬儀中に唱えられることもあり、静謐さの中に温かみを感じるのも特徴のひとつです。
葬儀の時間がやや長くなる傾向
一般に葬儀の所要時間がやや長く、導師(僧侶)の人数も多くなる傾向があります。こうした特徴から、曹洞宗の葬儀は「儀礼を重視し、厳粛に故人を仏道へ送る場」として捉えられています。
葬儀の目的と意味
曹洞宗における葬儀の本質的な目的は、故人が仏門に入ること、すなわち、お釈迦様の弟子「仏弟子」となるためです。
葬儀では「授戒(じゅかい)」と呼ばれる儀式を通じて戒名が与えられ、続いて「引導(いんどう)」によって故人を仏の世界へと導きます。単なる見送りではなく、「仏道の一歩目」としての精神的意味が込められているのが、曹洞宗の葬儀の大きな特徴といえるでしょう。
曹洞宗の葬儀の流れと内容
曹洞宗の葬儀も、通夜~葬儀・告別式、初七日法要と行われるのは他宗派と変わりません。なかでも特徴的なのは、「授戒(じゅかい)」と「引導(いんどう)」という2つの儀式です。ここでは、曹洞宗における葬儀の具体的な流れを、式次第に沿って解説していきます。
通夜から葬儀・告別式までの一般的な流れ
曹洞宗の葬儀でも「通夜」と「葬儀・告別式」が行われるのは他の宗派と変わりません。通夜は故人との最後の夜を静かに過ごす時間、葬儀・告別式は故人を仏の道へと導く本格的な仏式儀礼です。
葬儀本番では、前半で「授戒(じゅかい)」、後半で「引導(いんどう)」という重要な儀式が行われます。2つの儀式を通じて、曹洞宗の葬儀は「故人をただ見送る」のではなく、「仏門へと導く」ための宗教的意味が込められた場となります。
枕経
枕経は故人の枕元で、一番初めに行われる読経の儀式です。曹洞宗では臨終諷経(りんじゅうふぎん)と呼ばれます。自宅や葬儀会館などに故人を安置したあと行われます。
本来枕経は、臨終の際に行われるものでしたが、時代の変化とともに臨終後に行われるようになりました。
枕経は、戒名について相談したり葬儀の打ち合わせを行ったりするために重要です。しかし最近では葬儀の簡略化にともない、枕経を省略することも多くなっています。
通夜
通夜は葬儀前夜に行われ、遺族・親族・友人などが集まり故人とお別れをする場です。読経の後、焼香を行い、故人の冥福を祈ります。
地域や家族の考え方によっては、通夜のあとに「通夜振る舞い」と呼ばれる会食の場が設けられることもあります。
葬儀・告別式
曹洞宗の葬儀・告別式は、故人を仏の道へ導くための大切な儀式です。 一般的には通夜の翌日に行われ、遺族・親族・参列者が集まり、導師の読経とともに執り行われます。
曹洞宗では、格式ある読経や作法によって、故人の旅立ちを丁寧に見送ります。葬儀の前半は授戒(じゅかい)、後半は引導(いんどう)の儀式となります。それぞれの意味は以下の通りです。
授戒 | 故人に仏の戒め(戒律)を授ける儀式。これによって故人は仏弟子としての名前、「戒名(かいみょう)」を授かる 酒水(しゃすい)・懺悔文(さんげもん)・三帰戒文(さんきかいもん)・三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)・十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)・血脈授与(けちみゃくじゅよ)の儀式を行う |
引導 | 導師が読経と法語を通して、故人の迷いを断ち切り、仏の世界へと導く |
参列者による焼香があり、告別式の締めくくりとなる喪主からの挨拶が済むと、出棺となります。
葬儀~火葬まで、一連の儀式が終わると、「精進落とし」と呼ばれる会食の場を設けることも多いです。精進落としは、喪主から僧侶・参列者への感謝の気持ちを伝える場となります。
初七日法要
初七日法要は、故人が亡くなってから数えて7日目に行う供養のことです。仏教では、亡くなった日を1日目として、7日ごとに法要を行う「追善供養(ついぜんくよう)」の考え方があり、最初の法要が「初七日」です。
本来は亡くなった日から6日後に改めて法要を営みますが、最近では葬儀と同じ日に「繰り上げ初七日」としてまとめて行うことが多くなっています。これは、親族が再度集まる負担を減らすための配慮でもあります。
曹洞宗の初七日法要も他の宗派と同様、故人が三途の川を無事渡れるよう読経を行います。
葬儀・告別式の式次第
曹洞宗の葬儀・告別式には、宗派独自の儀式が含まれています。以下は、一般的な式の流れです。
剃髪 | 故人が仏弟子として出家することを表す儀式。実際には剃らず、形だけ行うのが一般的 | |
授戒(じゅかい) | 酒水(しゃすい) | 清めの儀式 |
懺悔文(さんげもん) | 生前の過ちや罪を悔い改める | |
三帰戒文(さんきかいもん) | 信仰の姿勢の表明。仏・法・僧の三宝に帰依することを誓う | |
三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)十重禁戒(じゅうじゅうきんかい) | 仏教の戒律を唱え、仏弟子としての規範を受け入れる | |
血脈授与(けちみゃくじゅよ) | 仏法の系譜(けいふ)を記した「血脈(けちみゃく)」と呼ばれる巻物を供える | |
入棺諷経(にゅうかんふぎん) | 読経をしながら、故人を棺に納める儀式 | |
龕前念誦(がんぜんねんじゅ) | 棺の蓋を閉じる際に行われる。故人が迷わずあの世へ旅立てるよう仏の加護を祈る | |
挙龕念誦(こがんねんじゅ) | 出棺前に邪気を払い、故人の成仏を願うための儀式。鳴り物を使用する鼓鈸三通が行われる | |
引導法語(いんどうほうご) | 導師が法語を読み上げ、故人を仏の世界へと導く。迷いや未練を断ち切る重要な儀式 | |
山頭念誦(さんとうねんじゅ) | 火葬場へ向かう前に行われる読経。地域によっては省略されることも | |
出棺・荼毘(だび) | 故人との最後の別れ。焼香、喪主の挨拶の後、出棺し、火葬となる |
曹洞宗の葬儀における作法とマナー
曹洞宗の葬儀では、宗派ならではの作法やマナーがいくつかあります。特に、焼香や線香の供え方、数珠の扱い方などは、他宗派と異なる点もあるため、事前に知っておくと安心です。
ここでは、曹洞宗の葬儀における代表的な作法やマナーを、他宗派と比較しながら解説していきます。
曹洞宗 | 臨済宗 | 浄土真宗 | |
---|---|---|---|
線香の本数 | 1本を立てる | 1本を立てる | 1本を折って寝かせる |
焼香の回数 | 2回が一般的 | 1回が基本(3回の場合もあり) | 本願寺派(西本願寺)は1回、真宗大谷派(東本願寺)は2回 |
焼香の所作 | 1度めは押しいただき、2度目はそのまま落とす | そのまま落とす | そのまま落とす |
数珠の形状 | 二重で用いる金属の輪が特徴 | 108玉の二重の念珠 | 蓮如(れんにょ)結びと呼ばれる房が特徴 |
焼香の作法
曹洞宗の焼香は、一般的に抹香(まっこう)を2回手に取り、次のような流れで行います。
- 指先で抹香をつまみ、額の高さまで押し頂いたあと、香炉にくべる
- 再び抹香をつまみ、今度は押し頂かず、そのまま香炉に入れる
左手は右手の下に軽く添えます。なお、焼香の回数や作法は、地域やお寺によって異なることもあります。立って焼香する場合も座って行う場合も、慌てず丁寧に行いましょう。
線香
供える際の流れは以下の通りです。
- ろうそくの火を使って点火する
- 火がついたら、手であおぐ・線香を軽く振るなどで火を消す
- 香炉に線香を立て、合掌して静かに手を合わせる
注意点としては、線香の火を消す際、息を吹きかけないのがマナーです。
なお、地域や寺院によっては複数本を立てる場合もありますが、一般的には1本とされています。迷った場合は、葬儀の担当者や僧侶の指示に従うとよいでしょう。こういった作法は宗派や地域などによっても異なるため、尋ねることをためらう必要はありません。早めに確認しておくと安心です。
数珠
曹洞宗では、「看経念珠(かんきんねんじゅ)」と呼ばれる二重の正式な念珠が使われます。108個の珠を二重にした形を基本とし、臨済宗と似た構造をしています。
輪の途中に金属の輪がついている点が臨済宗の数珠との違いです。一般の参列者であれば、略式の数珠でも問題ありません。
曹洞宗の数珠の持ち方は、数珠を二重にして左手にかけます。このとき親玉が人差し指の上にくるようにします。
参列者が知っておきたいマナー
曹洞宗の葬儀に参列するのが初めてという方は、不安に思うかもしれません。服装や持ち物で大きく異なる点はありません。ここでは、身だしなみや香典について解説します。
服装・持ち物
曹洞宗の葬儀での服装は、基本的に他の宗派と同様です。遺族・親族・一般参列者ともに、黒を基調とした喪服が基本となります。
葬儀での基本的な服装は以下の通りです。
男性 | 黒のスーツに白シャツ、黒のネクタイと靴。靴下も黒 |
女性 | 黒のワンピースやスーツ、アンサンブルなど。肌の露出を避け、ストッキング・靴も黒で統一。光沢の強い素材(エナメルやベロア)は避ける |
子ども | 制服があれば制服を着用。なければ落ち着いた色味(紺・グレー・黒など)の服装 |
なお、喪主や遺族側として参列する場合は、より格式を意識した正喪服(和装やモーニングなど)を着用するケースもあります。現代では略喪服(ブラックフォーマル)が主流です。
持ち物については以下の通りです。
数珠 | 略式のもので可。仏事用のものを用意する |
香典 | 表書きは「御霊前」が一般的。香典辞退の場合は不要 |
袱紗 | 香典を持参するために用意。紫・緑・紺・灰など弔事用を使用する |
その他 | ハンカチは白または黒など落ち着いた色の無地のもの。バッグは布製がベスト。光沢のあるエナメルやサテンは避ける |
葬儀にはさまざまなマナーがあり、親族、参列者など立場によってマナーは異なります。以下の記事ではシーンに応じて、知っておきたいマナーを解説しています。不安な部分がある方はチェックしてみてください。
香典の書き方・相場
曹洞宗の葬儀でも、参列する際には故人への供養の気持ちとして香典を持参します。表書は「御仏前」または「御香典」とし、他の宗派と同様、薄墨で記すのがマナーです。
表書 | 「御仏前」「御香典」/薄墨を使用 |
水引 | 白黒または双銀の結び切り(一部地域では黄白の場合あり) |
香典に包む金額についても、他の宗派と変わりません。金額は以下が目安です。
親族 | 1万円~10万円(年齢、関係性によって変動) |
友人・知人 | 5,000円~1万円 |
職場関係 | 5,000円程度 |
金額に決まりはありませんが、避けるべきマナーは以下の通りです。
- 偶数の金額(2,000円や4,000円など)にしない(不幸が重なることを連想させるため)
- 新札を使わない(用意していたように感じられるため)
香典の相場の金額や正しい包み方など、以下の記事で詳しく解説しています。不安な点がある方はぜひ記事をご確認ください。
曹洞宗のお布施と戒名の相場
葬儀のお布施や戒名については、定価があるわけではなく、寺院・地域などによっても考えが異なります。この章では基本の考え方と目安の金額などについて解説します。
お布施の相場
曹洞宗のお布施の相場は20~60万円とされています。お布施は、読経や儀式を執り行っていただいたことへの謝礼であり、感謝の気持ちを表すものです。
一般的に、お布施にはめいかくな金額の決まりはありません。地域の慣習や寺院との関係性によっても異なります。迷う場合は、僧侶に確認しても失礼にはあたりません。
なお、曹洞宗のお布施の相場は以下の記事で詳しく解説しています。気になる方はご確認ください。
お布施の包み方
曹洞宗の御布施のマナーは他宗派と変わりません。お布施を入れるのは奉書紙または白無地の封筒です。表書は、薄墨ではなく、通常の墨で、上段に「お布施」または「御布施」、下段に施主の名前を記入します。お布施のお包みは水引なしが一般的です。
中袋があれば中袋に、住所・氏名・金額を記載します。どこの家の葬儀のお布施かがわかるよう、必ず記載しましょう。
封筒 | 白無地の封筒、または奉書紙 |
表書 | 「お布施」「御布施」/施主名/濃墨 |
中袋 | 住所・氏名・金額を記載 |
お布施の書き方や包み方などのマナーについては、以下の記事で紹介しています。細かな点が気になる際は、ご確認ください。
戒名の意味とランクによる費用相場
戒名(かいみょう)は、仏弟子としての名前のことです。故人が仏の教えに帰依した証として授けられます。
戒名の費用は、ランクによって大きく異なります。一般的な目安は以下の通りです。
ランク | 金額 |
---|---|
信士・信女 | 10~50万円 |
居士・大姉 | 50~80万円 |
院信士・院信女 | 50~100万円前後 |
院居士・院大姉 | 100万円以上 |
曹洞宗では、葬儀の際に行われる「授戒」の儀式で戒名が与えられます。なお曹洞宗でも、他宗派と同様、生前に戒名を授かる「生前戒名」は可能です。
戒名について、基本的な考え方や必要性など、知っておくべきことを、以下の記事で解説しています。より詳しく知りたい方はご確認ください。
僧侶への対応とマナー
僧侶への対応とマナーについては、葬儀の段取りに沿って気をつけたいポイントをまとめました。
1. 葬儀が決まったら、すぐに連絡・依頼する
葬儀の日程が決まったら、できるだけ早く連絡し、葬儀の依頼をしましょう。葬儀の日時は僧侶・葬儀社・火葬場の空き状況によって決まります。
枕経・通夜・葬儀・初七日など、どの儀式に来てもらうかも相談します。菩提寺がある場合は必ず先に連絡し、葬儀社との調整はその後に行います。
2. お布施の金額や、お車代・お膳料の有無を確認
連絡時に、お布施の目安金額や、必要な謝礼(お車代・お膳料)の有無もあわせて確認しておくと安心です。お車代・お膳料は、お布施とは別に用意します。
3. 渡すタイミング
葬儀当日は、開式前か終了後の落ち着いたタイミングで、僧侶に直接手渡しします。お礼の言葉とともに、切手盆などで差し出すのが基本的なマナーです。
曹洞宗の葬儀を理解し、不安なく故人を見送ろう
曹洞宗の葬儀は、故人が仏弟子として旅立つための大切な場とされており、「授戒」や「引導」といった独自の儀式があります。
初めての葬儀では不安な点もあるかもしれませんが、基本的な流れやマナーを知っておけば、安心して式に臨むことができるでしょう。地域や寺院によって異なる部分もあるため、わからないことがあれば、菩提寺や葬儀社に確認するのがおすすめです。
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