仏陀の説いた教えを信仰する仏教は、キリスト教・イスラム教と並ぶ世界三大宗教のひとつです。仏教には天台宗・真言宗・日蓮宗・浄土宗などさまざまな宗派があり、それぞれ考え方や葬儀の内容が異なります。なかでも浄土宗は「念仏を唱えれば誰もが救われる」という教義のもと、独自の葬儀形式を持っているのが特徴です。
本記事では、浄土宗式の葬儀を執り行う準備をしている方や参列する予定の方向けに、浄土宗の葬儀の特徴や流れ、参列する際のマナーなどを詳しく解説します。一般的な仏式の葬儀との違いを知り、万全な状態で葬儀に臨みましょう。
この記事を要約すると
- 浄土宗は仏教の宗派のひとつで、「念仏を唱え続ければ、誰もが仏の救済を受けられる」という考え方を持っています。
- 浄土宗の葬儀では、参列者全員が南無阿弥陀仏の念仏を唱える「念仏一会」と、僧侶が松明や線香で棺に点火の仕草をする「下炬引導」が行われます。
- 浄土宗のお葬式は、ほかの仏式のお葬式の流れと異なります。お通夜の後の会食は行われず、葬儀・告別式は「序分」「正宗分」「流通分」の3段階に分かれています。
浄土宗とは
浄土宗は、鎌倉時代に法然上人によって開かれた仏教の宗派のひとつです。本尊は阿弥陀如来、総本山は京都の知恩院で、全国に七大本山があります。
浄土宗では「無量寿経」・「観無量寿経」・「阿弥陀経」の3つの経典をあわせた「浄土三部経」の経典を用い、死後に西方極楽浄土へと向かえるように「南無阿弥陀仏」を唱えます。浄土宗では、念仏を唱えれば誰もが極楽浄土で往生できると考えます。
浄土宗の教え
法然上人は、人々に「専修念仏」という教えを説きました。阿弥陀如来の救いを信じ、「南無阿弥陀仏」とひたすらに念仏を唱え続ければ、誰もが仏の救済を受けられるというものです。
念仏によって極楽浄土で往生できるというこの考え方は、「他力」と呼ばれます。具体的には、男性は3万回、女性は6万回念仏を唱えることで極楽浄土へ行けると考えられています。
浄土宗が登場する以前の仏教は身分の高い人や教養の深い人に向けて開かれており、庶民にとって身近な存在ではありませんでした。しかし、浄土宗の教えは仏教という学問を深く理解していなくても実践しやすかったため、「平等」の価値観のもと、庶民を中心に広く受け入れられました。
浄土宗と浄土真宗の違い
浄土宗とよく似た名前の宗派に、浄土真宗があります。両者はよく混同されますが、いくつかの明確な違いを持っています。
浄土真宗は鎌倉時代に親鸞聖人によって開かれた宗派で、浄土宗から派生しました。浄土真宗の教えは、浄土宗の教えを元に新たな解釈を加えています。
浄土真宗は浄土宗と同じく阿弥陀如来を本尊とし、他力の考え方を持ちますが、念仏を唱えるときの心に重きを置くという点で異なります。浄土宗は念仏を数多く唱えれば誰もが救われると考え、浄土真宗は念仏を一声一声心を込めて唱えることが大切だと考えます。
浄土宗 | 浄土真宗 | |
---|---|---|
基本の考え方 | 念仏を唱えれば誰もが極楽浄土へ行ける | 念仏をただ唱えるのではなく、唱えるときの信心が大切 |
般若心経 | 読む | 読まない |
戒律 | 厳しい | ない |
追善供養 | ある | ない |
僧侶の結婚 | 不可 | 可 |
浄土宗の葬儀の特徴
浄土宗の葬儀では、「念仏一会」と「下炬引導」という2つの儀式が行われるのが特徴です。この儀式を通して、故人を極楽浄土へ送り届けられると考えられています。
念仏一会
念仏一会は、葬儀の参列者が故人の代わりに「南無阿弥陀仏」を唱える儀式です。仏式のほかの宗派では、僧侶のみが念仏を唱えて参列者はそれを聴いていますが、浄土宗では参列者全員が念仏を唱えます。
この儀式は「故人が無事に極楽浄土で往生できるように助ける」という目的のほか、参列者と阿弥陀如来の縁を結ぶ機会としても大切にされています。
念仏一会では、南無阿弥陀仏を最低10回以上、一定の時間にわたって唱え続けます。念仏を唱えている間は、木魚や音木などの鳴り物でリズムを取るのが一般的です。
下炬引導
下炬引導はもともと火葬の点火の儀式で、僧侶が松明を使って棺に火を点けていました。この儀式には故人が極楽浄土へ向かえるように祈る目的があり、現代では火を用いずに行われています。
はじめに僧侶が棺の前で焼香をし、松明・線香・宝具などを2本取ってそのうちの1本を捨てます。この仕草は「厭離穢土(おんりえど)」といい、煩悩を捨ててこの世から離れることを表現しています。
続いて、「下炬の偈(あこのげ)」という引導の句を唱えながら、残った1本で円を描いて最後に捨てます。こちらは「欣求浄土(ごんぐじょうど)」といい、故人が無事に極楽浄土へ迎えるように祈る意味合いがあります。
浄土宗の葬儀の流れ
ここからは、浄土宗における葬儀の流れを解説します。基本的な流れは、一般的な仏式の葬儀と同様です。
お通夜
お通夜は故人と遺族が最後の一晩を過ごす大切な儀式で、故人との生前の思い出を偲ぶ目的で行われます。
お通夜では、故人を北枕の向きで寝かせ、顔に白い布を掛け、胸元に守り刀という小刀を置きます。式では僧侶が「枕経」を唱えたり、弔問客を迎え入れたりしながら過ごします。
一般的な仏式のお通夜の後には「通夜振る舞い」という会食が開かれますが、浄土宗では通夜振る舞いは行いません。
葬儀・告別式
浄土宗の葬儀・告別式は、(るつうぶん)の3つの段階に分かれています。それぞれの儀式を詳しくみていきましょう。
序分
葬儀の初めに行われる、葬儀場に諸仏を迎え入れる儀式です。
- 入堂:僧侶が入堂する
- 香偈(こうげ):お香を焚いて心を鎮める
- 三宝礼(さんぼうらい):仏・法・僧の三宝に礼をする
- 奉請(ぶじょう):諸仏の入場をお願いする
- 懺悔偈(さんげげ):迎え入れた仏に対して自身の罪を懺悔し、御仏のお話(正宗分)をうかがう
正宗分
葬儀の中心となる部分で、浄土宗の特徴である下炬引導や念仏一会が行われます。
- 転座・作梵:僧侶と参列者が本堂から棺へと体の向きを変え、梵語の四智讃(しちさん)という曲を唱える
- 下炬引導:僧侶が松明や線香で火を付ける仕草をする
- 弔辞:弔辞・弔電を読み上げる
- 開経偈(かいきょうげ):経文を読む前に、故人が御仏の教えを会得できるよう願う
- 誦経(ずきょう)・焼香:僧侶が阿弥陀経の「四誓偈(しせいげ)」か「仏身観文」を読経し、参列者が順に焼香する
- 摂益文(しゅうやくもん):念仏を唱える者は阿弥陀仏の光明に照らされ、仏に守られるという偈文(げもん)を読む
- 念仏一会:僧侶と参列者が御仏に感謝しながら念仏を唱え続ける
- 回向(えこう):故人の霊に念仏の功徳を捧げ、故人の成仏を願う
- 総回向偈(そうえこうげ):念仏の功徳の一切を受け、個人の往生を願う
流通分
無事に正宗分を終えたことを感謝し、諸仏と故人を送り出す儀式です。流通分の最後に、故人を納めた棺が出棺します。
- 総願偈(そうがんげ):極楽浄土の願いが広大であることを示す偈文を読む
- 三身礼(さんじんらい):阿弥陀仏が遺した以下3つの功徳を讃え、帰依を表明する
・「光明摂取」:信者を救済しようとした御心
・「本願成就」:阿弥陀仏が悟りを開いたこと
・「来迎引接(らいこういんじょう)」:信者を極楽浄土に導くこと
- 送仏偈(そうぶつげ):お迎えしていた御仏を本来の場所へお送りするための偈文を読む
- 退堂:僧侶が退堂する
- 最期の対面:遺族や参列者が最後に故人と顔を合わせる
- 出棺:棺を閉じ、霊柩車で火葬場へ出棺する
浄土宗の葬儀に参列する際のマナー
ここからは、浄土宗の葬儀に参列する際に気を付けるべきポイントを解説します。一般的な仏式の葬儀と異なる点がいくつかあるので、事前に知ったうえでしっかりとマナーを守りましょう。
日課数珠を用いる
仏教の葬儀ではお経や念仏を唱える際に数珠を用いますが、浄土宗の葬儀では一般的な数珠の形とは異なる「日課数珠」を用います。
日課数珠は、2つの輪が繋がった二連の形をしているのが特徴です。浄土宗では男女で必要な念仏の回数が異なるため、男性は47個の玉が繋がった「三万浄土」を、女性は67個の玉が繋がった「六万浄土」を用います。
参列時は念仏を唱えるとき以外は左手首に掛けておき、念仏を唱えるときは両手の親指と人差し指の間に挟んで手を合わせましょう。
焼香の数に決まりはない
仏式の葬儀では、参列者一人ひとりが焼香をあげる儀式があります。浄土宗では、焼香の数にとくに決まりはなく、1回〜3回を目安に行います。
なお、焼香には決まった作法があるため、参列する前に必ず確認しておきましょう。
焼香の作法
- 焼香台の手前に立ち、遺族と僧侶に一礼する
- 焼香台の前に進み、遺影に一礼する
- 左手に数珠を掛けた状態で合掌する
- 右手の親指・人差し指・中指で抹香をつまむ
- つまんだ抹香を額の高さまで掲げる(左手を添える場合もある)
- 抹香を香炉に入れる
- 4〜6を1~3回繰り返す
- 再び合掌し、遺影に一礼して自席に戻る
香典の表書きは御霊前または御香典
浄土宗でも、一般的な仏式の葬儀と同じように、参列者が香典を包むしきたりがあります。金額の相場は通常と同様で、故人との生前の間柄や年齢によって適切な金額が異なります。
不祝儀袋は仏式の黒と白の結び切りの水引がついているものを選び、表書きには薄墨で「御霊前」や「御香典」と書き記しましょう。
香典は、書き方や包み方にさまざまなルールがあります。以下の記事では、香典の包み方や金額の相場をより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
服装は一般的な葬儀と変わらない
葬儀に参列する際の服装も一般的な仏式の葬儀の際と同様で、男性は黒いスーツ、女性は黒いワンピースやアンサンブルを着用するのが一般的です。
なお、喪主や親族など、故人に近しい間柄だった方は正喪服を着用してもかまいません。男性は黒の紋付羽織袴とモーニングコート、女性は黒紋付の着物と黒のアフタヌーンドレスが正喪服にあたります。
供物は消え物を選ぶ
葬儀に参列する際に、供物や供花を贈るケースも珍しくありません。供物にはお菓子・果物・線香・ろうそくなどの消え物、供花には白い菊やユリなどを束ねた花籠やスタンドフラワーを選ぶのが一般的です。また、故人が生前好きだった食べ物を供物として送る方法もあります。
なお、遺族によっては供物の受け取りを辞退している場合があるため、贈り物を考えている方は事前に確認を取るようにしましょう。
浄土宗の葬儀費用
浄土宗の葬儀費用は、一般的な葬儀の費用とほとんど変わりません。金額の相場は家族葬が100万円前後、一般葬が100~200万円程度です。なお、地域や菩提寺によっては、お布施や戒名料が相場よりも高額になる可能性があります。
なお、弊社「1日葬・家族葬のこれから」では、必要なものが含まれた分かりやすいセットプランでのご葬儀を提供しております。浄土宗の葬儀にも対応しておりますので、安心してお任せください。
以下の記事では葬儀の費用相場や金額の内訳、葬儀費用を安く抑える方法などを詳しく解説しています。ぜひ、こちらもあわせてご覧ください。
浄土宗のお布施
お布施とは、お通夜や葬儀に参列してくれた僧侶に対して支払う謝礼を指します。葬儀に僧侶を招いた場合は、必ずお布施を包んで渡す必要があります。
お布施の金額相場は10〜50万円程度といわれていますが、地域や菩提寺によってはその限りではありません。いくら包めばよいか不安な方は、葬儀社に相談することをおすすめします。
なお、戒名を依頼した場合は別途で「戒名料」を、送迎を行わなかった場合は交通費として「御車料」を包みましょう。
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浄土宗の戒名
仏教では、死後の世界に旅立つ際に「戒名」という仏教上の通名を授かります。戒名は生前の名前や職業などに基づき、僧侶によって名付けられます。浄土宗では、「院号・誉号・戒名・位号」の順に7文字程度の戒名を授かるのが一般的です。
なお、戒名を授かる場合は、僧侶に「戒名料」を支払う必要があります。戒名料の相場は宗派や戒名の内容によって異なりますが、30〜100万円程度を見積もっておきましょう。
なお、弊社では、お寺とのお付き合いがない方向けに、読経と戒名を含んだ価格でのお坊さんの手配も承っております。浄土宗にも対応しておりますので、お問い合わせください。
浄土宗ならではの風習を理解しましょう
浄土宗の葬儀には、参列者が全員で念仏を唱える「念仏一会」や点火の作法である「下炬引導」など、特有の儀式がいくつもあります。葬儀に参列する前に、しっかりと流れを押さえておきましょう。
弊社では、価格を抑えたプランパックでの葬儀をご用意しています。参列人数に応じた広さの式場で、現代に合わせたシンプルな葬儀を行えます。依頼・相談は24時間365日受け付けているので、興味をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください。