大切な方がお亡くなりになって葬儀の準備をしていると、「湯灌」(ゆかん)と呼ばれる儀式について耳にされる方もいらっしゃるでしょう。湯灌は、納棺の前に故人の体を洗い清めることで、この世の穢れを落とし無事に成仏できるようにするための儀式です。
現代の葬儀ではあまり行われていないため、湯灌を見たことがない方も多いでしょう。本記事では湯灌のメリットやデメリットをご紹介します。注意点や湯灌と死化粧やエンバーミングとの違いについても解説しているので、湯灌をよく理解できていない方や湯灌が必要なのかわからないという方は、ぜひ参考にしてください。
この記事を要約すると
- 湯灌のメリットは、「髪型や服装を整えられ、外見を綺麗にできる」「故人と触れ合い偲ぶことができる」などが挙げらます。
- 湯灌のデメリットは、遺体の腐敗が進みやすくなることです。温まると腐敗が進行するため、夏場で火葬待ちが長い場合などは注意し、葬儀社に相談しましょう。
湯灌とは
湯灌とは、納棺の前に故人の体を洗い清める儀式のことです。ご遺体を拭いて清める古式湯灌とシャワーや浴槽を使って入浴する方法があります。
古式湯灌は葬儀社や専門の業者に依頼し、故人を布団に寝かせた状態で行います。入浴する場合は、自宅など故人が安置されている場所へ専用のバスタブとシャワーを持ち込み体を洗います。故人の体がきれいになったあと着替えや化粧を行います。
なお、湯灌はどこまでの関係性の人を呼ぶのか気になる方や、そもそも湯灌とは何かおさらいしたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
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湯灌のメリット
ここでは湯灌が何のために行われるのか、湯灌のメリットについてご紹介します。
旅立つ前に外見を整えられる
湯灌を行うことによって、故人の外見をきれいにできることがメリットの一つです。また、臭いの緩和にも効果的です。
人は亡くなると関節や筋肉が固まり、腐敗が始まります。そのままにしていると、皮膚の色が変わり体液が出ることもあります。生前の闘病生活で痩せてしまった方や顔色が良くなかった方も、湯灌によって見た目を整えることが可能です。
具体的には髪型や服装を整え、綿を詰めたりメイクをしたりして表情もきれいになるようにします。
安らかな成仏のために故人の魂を慰めることができる
湯灌は、故人の体を清めることで無事に成仏できるように願う儀式です。現世の穢れや悩みを洗い流し、きれいな姿で極楽浄土へ旅立つ準備とされています。また、「産湯」に例えられ、来世の幸せを祈る意味も込められています。
仏教では高僧が行っていたこともあり、湯灌は徳のある行為とされます。神道では沐浴(もくよく)とも呼ばれますが、湯灌は宗教や宗派を問わず日本の葬儀文化に根付いた儀式です。
故人と触れ合って偲ぶ機会になる
湯灌は、故人と最後に触れ合い偲ぶ機会となることもメリットの一つです。家族や近しい親族だけで故人の体を清めたり好きな服に着替えさせたりすることで、心穏やかに見送ることができるでしょう。
葬儀とは異なり、湯灌は家族の心の整理を助ける役割を果たします。晩年、長い闘病生活を過ごし、お風呂に入れなかった故人を最期にお風呂に入れてあげたいという遺族の想いが叶う場面でもあります。
湯灌のデメリット
湯灌をするかどうか決めるには、メリットだけでなくデメリットも確認しておきたいところです。ここでは、湯灌のデメリットについて解説します。
費用が高い
湯灌は、葬儀費用に追加して5万〜10万円程度かかります。入浴はせず古式湯灌として清拭のみを行う場合は5万円前後、入浴する場合は8〜10万円前後が相場です。アロマやお手入れなどのオプションを増やすと、さらに追加の費用がかかります。
故人をお見送りする際は、湯灌以外にも葬儀を含めたさまざまな場面で費用がかかります。葬儀の規模が大きい場合は、棺や祭壇を豪華にすることもあるでしょう。お布施や戒名料も宗教や宗派によって異なります。
葬儀のどこに費用をかけるか考えたうえで、湯灌の費用が予算に収まるか考えてみると良いでしょう。
衛生面でのリスクがある
故人の体内では、菌やウイルスが繁殖している可能性があります。湯灌の後、着替えや化粧を施しご遺体を整え終わった段階で、体液が漏れ出さないように綿を詰めるなどの処置がされています。
しかし、湯灌を行っている最中は口や鼻、皮膚、傷口や縫合部から、血液や体液が漏れ出し、直接触れてしまうリスクがあります。そのため、手袋やマスクを着用して、感染対策を行う必要があります。
遺体の腐敗が進む
人が亡くなると何もしなくても腐敗が始まるうえ、ぬるま湯に入浴する湯灌を行う場合は、体が温まり腐敗が進みやすくなります。
もちろんそのままにしているより、体をきれいにして処置を行う方が衛生的にきれいな状態を保つことができますが、腐敗が進むのが心配という方は、入浴はせず清拭を行う古式湯灌を選ぶ場合もあります。
夏場に火葬場が混み合い、順番待ちで予約が取りづらく、安置の時間が長くなることもあるでしょう。古式湯灌と入浴、どちらが良いかは、亡くなってから湯灌を行うまでの時間やご遺体の状態によって異なります。もし腐敗が心配な場合は、業者に相談すると安心です。
エンゼルケアやエンバーミングとは何が違う?
湯灌について調べていると、エンゼルケアやエンバーミングという言葉を目にすることもあるでしょう。病院や葬儀社で話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、湯灌とエンゼルケアやエンバーミングとの違いについて説明します。
湯灌とエンゼルケアとの違い
エンゼルケアは、お亡くなりになった病院や施設で看護師・介護士が行う処置のことです。体をきれいに拭いて、口腔や鼻腔などに綿を詰め、白装束に着替え、ファンデーションやチークなど簡単な死化粧も行います。
入浴する湯灌と違い清拭で肌をきれいにします。お湯では髪を洗わずに櫛で髪を整え、状況に合わせてドライシャンプーを行います。故人の好きな服に着替えさせたい場合やメイクを濃くして欲しい場合など、個別の希望に対してどこまで対応できるかは病院によって異なります。
湯灌と異なり基本的には看護師などスタッフが行いますが、希望があれば同席して清拭やメイクなど一部のケアに参加できる場合もあります。ただし、故人が感染症にかかっていた場合や病院の方針によって、エンゼルケアに同席できないこともあります。
湯灌とエンバーミングの違い
エンバーミングは、ご遺体を消毒し体液を抜いて防腐剤などの薬品を注入することで、一定期間遺体を腐敗させずに保管するための処置のことを指します。
およそ10〜14日ほど保管できる技術で、処置の内容やご遺体の状態によっても異なりますが50日近く保存できることもあるようです。費用は15〜25万円ほどが相場で、専門の施設でエンバーマーと呼ばれる専門家によって行われます。
日本では、火葬を行うのが一般的です。火葬場の混み具合などにもよりますが、死後3日以内に火葬されることがほとんどであるため、エンバーミングを選ぶ方は少ないでしょう。
一方で、海外でお亡くなりになりご遺体を飛行機で国内に運ぶ場合や、日本で亡くなった方を海外に移送する場合など、通常より長期にご遺体を保管する必要がある場合などに選ばれています。
湯灌の注意点
湯灌を行う場合に、どんなことに注意すべきか知っておきたいという方もいらっしゃるでしょう。ここでは、湯灌を行ううえでの注意点を解説します。
必ずしも必要ではないことを理解しておく
近年は、病院や介護施設で亡くなる方が多く、病院でエンゼルケアが行われることがほとんどです。介護施設でも看取りを行う施設であればエンゼルケアをお願いできることもあり、湯灌をしなくともご遺体はきれいに整えられています。
ご自宅で亡くなられた場合でも、故人が闘病されていた方であれば、訪問看護師がエンゼルケアを行うこともあり、必ずしも湯灌が必要ということはありません。
もしエンゼルケアが行われていない場合は、家族だけでご遺体の処置をするのは難しく、専門の業者に依頼することになります。ご遺体の状態にもよりますが、湯灌師を呼んで入浴させる湯灌をしなくても、清拭だけの古式湯灌でもご遺体をきれいに整えることができます。
故人をお風呂に入れてあげたい、故人を偲んでゆっくり過ごしたい、家族も湯灌に参加したいという場合には、もちろん湯灌がおすすめです。ただし、必ず行わなければならないというわけではないことも理解しておきましょう。
湯灌の種類や価格をきちんと確認する
湯灌にかかる費用の相場は5〜10万円程度であると解説しましたが、地域や業者によっても価格は異なります。また、清拭を行う古式湯灌なのか、入浴を行う湯灌なのかによって価格差もあります。
死装束への着替えは、一般的に湯灌の費用に含まれていることが多いものの、死化粧や納棺など、一連の流れのなかでどこまで行ってもらえるかを事前に確認しておきましょう。
マナーを守る
湯灌を行う場合は故人を裸にするため、部屋に屏風や衝立などを準備して目隠しを行います。故人にとっても自分の体は見られたくないものですし、家族でもご遺体を見ることでショックを受ける方もいらっしゃいます。
湯灌に参加しなくても、きれいになったお顔を湯灌のあとに確認して故人を偲ぶこともできるので、湯灌を無理に勧めるのはよくありません。そういった方の目に触れなくて済むようにすることが大切です。衝立などは業者が準備を整えてくれ、辛いときは途中で退席することもできます。
湯灌と葬儀の日付や会場が同じ場合、湯灌に参加されない方がその場に居合わせなくて済むように、早めの到着をお断りしておくことが良いでしょう。
なお、湯灌に参加する服装は喪服か平服です。喪服以外の場合は、男性はビジネススーツ、女性はダークな色合いのスーツやワンピースなど控えめで地味な装いにしましょう。
湯灌のこと以外も不明点があれば葬儀社に相談を
湯灌を行った方が良いか、清拭だけの古式湯灌が良いか入浴する湯灌が良いかは、故人や遺族の意向、ご遺体の状態などによっても異なります。湯灌だけでなく葬儀全体の費用や日程を見て決めると良いでしょう。
喪主は人生で何度も経験するものではないため、わからないことも少なくありません。湯灌だけでなく葬儀に関してわからないことは、葬儀社に相談しましょう。
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